『沖縄久高島のイザイホー』と全素材デジタル化への道 6

                              岡田一男(公益財団法人下中記念財団評議員・東京シネマ新社代表取締役)

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参考動画 従来YouTube配信されてきた動画像から「七つ橋渡り」と「玉城ミスゥルル」終末部をピックアップ、従来のSD画像と2K-Full画像、そこから作成した16:9フルスクリーン画像を比較する。 

2K-Full(2048x1556ピクセル)デジタル化で期待されるもの

 この作業を通じ、イザイホーフィルムの権利関係においては、東京シネマ新社への著作権管理一元化が実現し、すっきりした。下中記念財団は、ECフィ
ルムに運用に関しては、エンサイクロペディア・シネマトグラフィカの国際規約に基づき活動する世界唯一の「フル・アーカイブ」であり、一定の権利を
主張できる立場であるが、今般の企画は、財団の過去の成果をできる限り公的機関に移譲して行くという基本方針と合致すると言う理事長見解をいただい
ている。ということで最後に、今般のデジタル化の意義について考えてみよう。

 本件の撮影素材が16㎜カラーフィルムで、完全な同期録音撮影で行われていることである。それ以前のイザイホーは白黒16㎜撮影で行われており、同期
音声は無い。1978年には多くの撮影取材が行われているが、16㎜カラー撮影は行われていても、同期録音撮影は他に行われず、音声つき映像は2インチ、
UマチックENGなどビデオ収録しかない。これら主に放送系の取材ビデオ映像が現況どうなっているか判らないが、あっても画質は、525本解像度で、せい
ぜい輪郭強調などの画質改善しか望めない。また各アシビの頭から尻までをシームレスレスに収録するような取材は、他では行われていなかった。全ての
画像を2K-Full(2048x1556ピクセル)デジタル化することは、これまでになかった類例のない高画質のイザイホー動画像を多くの人々に提供することになる。

 近々、デジタル化、アーカイブ化、データベース化のため組織された非営利の任意団体、文化財映像研究会で、全容が策定されると思うが、個人的には、
下記を想定している。

第一期

① 2021年107分版(1979年版の改訂版)の2K-DCP作成まで

②  「沖縄久高島のイラブー」約40分の2K-DCP作成まで

③   第2期、各論編のデモクリップなど

 中間成果発表は、第二期のアーカイブ化、データベース化のスタートキャンペーンでもあり、現地久高島、那覇と東京で行われるべきで、時期は、2022年
の沖縄日本復帰50年を期して開催される日本映像民俗学の会宮古島大会の前後にリンクできれば効果的と考える。

第二期

① 各論編 
a)準備期 
b)第一日目午前「ウプティシジ香炉の継承」 
c) 第一日目夕刻「ユクネーガミアシビ(夕神遊び)」 
d) 第二日目午前「ハシララリアシビ(洗い髪遊び)」 
e) 第三日目午前「シューリキ(朱つけ)」 
f) 第三日目「ハナサシアシビ(花刺し遊び) 
g)「ハーガミアシビ(井泉神遊び)」 
h) 第四日目午前方遥拝」 
i) 第四日目午前「アサンマーイ(各戸巡り)」 
l) 第四日目午後「外間拝殿でのグゥーキマーイ・タマグシクミスルル」 
k) 第四日目午後「御殿庭でのグゥーキマーイ・タマグシクミスルル」 
l) 終了後 
m) フバワク(年末の聖域清掃儀礼)

 デジタル化着手前の想定であって、デジタルデータの精査で変更・追加の可能性がある。

 以上のうち、マルチカメラ収録を行った個所では、カメラ非駆動部分を黒み(BB)を吊って、カメラ別ロールも作成する。ティルル(神謡)には極力、比嘉
康雄による現代語訳字幕をつけ、現代研究者による学術的検証を行う。とりわけ、その後の久高島方言研究の成果との使用語彙の摺合せは大切と認識する。

②  一般向け第3版 第二期①の学術的検証を参考に第一期①②にとらわれず、必要があれば、全デジタル素材から再構成した、第三版を制作する。

③ 東京文化財研究所のサーバーを通じた公開を検討しつつデータベース化を実現する。データベース化は先行して行われた、久高島年中行事データベース
との統合をめざす。もしこれが実現すれば、久高島におけるシマレベルの全祭祀の映像データベースが完備されることとなる。これらすべての完結は、本来
なら次のイザイホーが行われる年であり、那覇では首里城復元が実現する2026年を念頭に置く。


掲載開始:2021.05.29.
最終更新:2021.06.17.